税理士との打ち合わせや決算準備の中で、「うちのクラウドストレージは、電帳法にちゃんと対応しているのだろうか」と不安になったことはないでしょうか。クラウドストレージを「使えている」ことと「要件を満たしている」ことは別の話です。ツールを導入しているだけでは、電子帳簿保存法(以下、電帳法)の要件を満たしているとは言えません。
本記事では、すでに自社で稼働中のクラウドストレージが電帳法の要件を満たしているかどうかを、5つのチェック軸で自己診断できる構成にしました。「継続運用できるか」「設定追加で対応できるか」「根本的に乗り換えが必要か」を自分で判断する材料として活用してください。
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電帳法の要件は、クラウドのどの機能と対応するのか
電帳法の要件を理解する際、法律文書をそのまま読もうとすると抽象的すぎて、自社ツールへの当てはめが難しくなります。ここでは要件をクラウドストレージの機能に翻訳した形で整理します。
電帳法のスキャナ保存・電子取引データ保存において要件となる主な柱は、真実性の確保(改ざん防止)・可視性の確保(閲覧・出力可能な状態)・検索性の確保(日付・金額・取引先などで検索できること)の3つです。これをクラウドストレージの機能に置き換えると、以下の対応関係になります。
国税庁
| 電帳法の要件 | クラウドストレージで対応する機能 |
| 真実性(改ざん防止) | 訂正・削除の履歴記録、アクセス権限管理、タイムスタンプ付与 |
| 可視性(閲覧・出力) | ファイル形式の維持、ディスプレイ表示・印刷出力の可否 |
| 検索性 | メタデータ検索、フォルダ名・ファイル名による代替検索 |
この対応表を念頭に置いた上で、次章のチェックシートに進んでください。
自己診断チェックシート:5つの確認軸
自社のクラウドストレージを手元で確認しながら読み進めてください。各軸について「機能として対応している(OK)」「設定・運用規程の整備で対応できる(条件付きOK)」「原則として対応不可(NG)」の3段階で判断します。
チェック軸①:訂正・削除の履歴は記録されているか
電帳法では、電子取引データについて「正当な理由のない訂正・削除を防止するための措置」が求められます。具体的には、ファイルを上書き・削除した場合にその操作履歴(いつ・誰が・どのファイルに対して行ったか)が記録され、事後確認できる状態であることが必要です。
確認すべき点は「ファイルのバージョン履歴が自動保存されているか」「削除済みファイルの復元・操作ログが管理者権限で確認できるか」の2点に絞られます。多くのクラウドストレージはバージョン管理機能を持ちますが、無料プランや下位プランでは保存期間が短期間に制限されていることがあります。法定保存期間(最長10年)にわたって履歴が保持されるプラン・設定かどうかを確認してください。
判定の目安
- OK:バージョン履歴が自動保存され、管理者が確認できる
- 条件付きOK:機能はあるが、保存期間や設定の見直しが必要
- NG:上書きや削除の履歴が残らない
チェック軸②:アクセス権限の管理が適切に設定されているか
真実性確保のもう一つの柱が、アクセス権限の管理です。電帳法が求める改ざん防止措置として、「権限のない者がデータを書き換えられない状態」を組織的に維持する必要があります。クラウドストレージ側の機能として権限管理が可能でも、実際の運用で「全員が編集権限を持つフォルダに請求書を置いている」状態であれば要件を満たせません。これは機能の問題ではなく運用設計の問題であるため、ツールを変えても解決しません。
確認すべき点は「保存フォルダへの書き込み・削除権限が担当者以外に開放されていないか」「権限設定を変更できる管理者が明確に定まっているか」の2点です。
判定の目安
- OK:フォルダ単位で権限を設定でき、書き込みや削除を制限できる
- 条件付きOK:機能はあるが、現状の権限設定や規程整備が不十分
- NG:全員が同等の権限を持ち、制御できない
チェック軸③:タイムスタンプの付与、またはその代替措置があるか
スキャナ保存においては、タイムスタンプの付与がデータの真実性を証明する主要な手段の一つとして定められています。ただし、2022年改正以降、一定の条件を満たす場合はタイムスタンプ不要の措置も認められています。具体的には「訂正・削除を行った場合に履歴が自動的に記録されるシステム」を使用している場合、タイムスタンプに代わる措置として認められます。
つまり、チェック軸①(訂正・削除の履歴管理)をクリアできているシステムであれば、タイムスタンプ機能そのものを別途用意しなくてもよいケースがあります。
判定の目安
- OK:タイムスタンプ機能、または同等の仕組みが備わっている
- 条件付きOK:履歴管理による代替措置は可能だが、規程整備が必要
- NG:タイムスタンプも代替措置もない
チェック軸④:検索要件を満たす検索機能があるか
電帳法では、電子取引データについて「取引年月日・取引金額・取引先」の3項目を条件に設定してデータを検索できることが原則として求められます。なお、電子取引データの保存では、基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務職員によるダウンロードの求めに応じられる場合など、検索機能の確保要件が不要となるケースがあります。自社の適用可否については、税理士または国税庁の最新資料で確認してください。
一般的なクラウドストレージは、ファイルのメタデータ(日付・ファイル名)での検索機能を持ちますが、「取引金額」をファイルの属性として検索できるシステムは多くありません。この場合、ファイル名に規則性を持たせることで検索要件を代替する方法が認められています。たとえば「20240401_株式会社○○_110000」のように日付・取引先・金額をファイル名に含めるルールを社内規程として定め、統一的に運用することが代替措置となります。
判定の目安
- OK:日付・金額・取引先の3項目で検索できる
- 条件付きOK:ファイル名ルールや社内規程で代替できる
- NG:検索条件が整っておらず、運用ルールもない
なお、ファイル名のつけ方の詳細については、「電子帳簿保存法におけるファイル名のつけ方とは」で解説しています。
チェック軸⑤:閲覧・出力環境が整備されているか(可視性)
可視性の要件として、保存したデータを「整然とした形式で、明瞭に確認できる状態」で閲覧・出力できることが必要です。税務調査の場面では、調査担当者がデータを確認できる環境を提供する必要があります。
確認すべき点は「ファイルをブラウザやアプリで即座に表示・印刷できるか」「保存形式がPDF等の標準的なフォーマットで維持されているか」の2点です。特殊な拡張子や独自形式への自動変換が行われる場合は注意が必要です。
判定の目安
- OK:標準形式で保存され、表示・印刷が可能
- 条件付きOK:閲覧はできるが、印刷環境や手順整備が必要
- NG:専用ソフトがなければ閲覧できない
5軸の判定結果の見方
5つの軸を確認したら、以下の判定ロジックで自社の状況を整理します。
- 全軸OK → 現在の運用を維持しながら、定期的な設定・権限の棚卸しを行えば問題ありません。ただし法改正への追従は継続して確認が必要です。
- 1軸以上が条件付きOK、NGなし → 設定変更・社内規程の整備・ファイル名ルールの統一といった「運用改善」で対応できます。追加コストが低く、ツールの乗り換えは不要なケースが多いため、まずは社内規程の整備から着手します。
- 1軸以上がNG → ツールの機能面で根本的な要件不足があります。設定や運用の工夫では補えないため、専用の電帳法対応システムの導入や、要件を満たすツールへの切り替えを検討する段階です。
よくある誤解パターン
誤解①:「クラウドに保存すれば電帳法に対応している」
クラウドへのファイル保存は、あくまで保存媒体の問題です。電帳法の要件は「どこに保存するか」ではなく「どのような状態で保存し、管理するか」を定めています。無設定のまま共有フォルダに請求書を放り込んでいるだけでは、要件を満たしていません。
誤解②:「JIIMA認証を取得したツールなら全部OK」
JIIMA認証は、そのシステムが電帳法の要件を満たす機能を備えていることの証明です。しかし、認証を受けたシステムを導入しても、権限設定や社内規程の整備が伴わなければ要件を満たしたことにはなりません。システムの認証と、自社運用の要件充足は別物です。
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)
誤解③:「タイムスタンプは必須」
前述のとおり、2022年改正以降、一定の要件を満たすシステムを使用している場合はタイムスタンプ不要とする措置が認められています。タイムスタンプにかかるコストを理由にシステム導入を敬遠している場合、実態を確認した上で再判断する価値があります。
要件NGが判明した場合の社内対応ステップ
チェックの結果、NGや条件付きOKが複数見つかった場合、以下の順序で動くと社内対応がスムーズになります。
- Step 1:ギャップの一覧化
どの軸が・なぜ・どの程度NGなのかを表にまとめます。「現状の状態」と「要件として必要な状態」の差分を可視化することが、上司や情シスへの報告材料になります。 - Step 2:設定・規程で解決できるものを先に着手
条件付きOKに分類された項目は、ツールの変更なしに対応できます。アクセス権限の再設定、ファイル名規則の制定と周知、社内保存規程の文書化を優先します。社内規程の作成については、「電子帳簿保存法の保存要件の3種類とは?」も参照してください。 - Step 3:機能面でNGな軸はツール評価へ
訂正・削除履歴の管理や権限設定が機能として提供されていない場合は、ツールの追加導入または切り替えが必要になります。この段階では、「電子帳簿保存法に対応したオンラインストレージの選び方」を参考に比較検討を進めてください。 - Step 4:対応状況を記録として残す
税務調査の場で「どのように対応してきたか」を説明できる状態を作ることが重要です。設定変更の日時、規程の制定日、担当者の記録を残しておきます。
まとめ
クラウドストレージを導入済みであっても、電帳法の要件を満たしているかどうかは別問題です。本記事の5軸チェックで「訂正・削除履歴の管理」「アクセス権限の設定」「タイムスタンプまたは代替措置」「検索要件への対応」「可視性の確保」を自社ツールに当てはめ、OK・条件付きOK・NGを判定してください。NGや条件付きOKが見つかった場合は、前述の対応ステップに沿って、まずは社内でギャップを共有するところから始めてください。
Fleekdriveは電帳法対応のクラウドストレージとして、訂正・削除履歴管理やフォルダ単位・ユーザー単位でのアクセス権限設定などの機能を提供しています。JIIMA認証の取得状況を含む詳細な機能仕様については公式ページを確認してください。現状ツールに要件上のギャップが見つかった場合は、比較検討の候補として確認しておくと整理しやすくなります。
