昨今のランサムウェア攻撃は、企業のファイル管理に業務停止と情報漏洩のリスクをもたらし、従来の対策だけでは防ぎ切れません。重要なのは「ランサムウェアに感染しないこと」だけでなく、感染時に事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)に基づき、事業を迅速に再開し、確実に復旧する対策です。本記事では、法人向けの高セキュリティなクラウドを核に、ランサムウェア対策の考え方と運用、バックアップと復元、権限・監査を含む多層対策を整理し、ランサムウェアの実態に即した復旧中心の手順を解説します。
Contents
従来のランサムウェア対策が機能しなくなった理由
ランサムウェアの脅威は進化し、従来の防御だけでは限界が見えています。法人が直面している論点は、防御の可否ではなく復旧をいかに確実にするかです。
ネットワーク分離型バックアップを狙う最新の攻撃手法
かつてのランサムウェアは、PCやファイルサーバー上のデータを暗号化するに留まっていましたが、最新の手法はネットワーク共有されたバックアップデータやNASを標的にします。巧妙にネットワークに潜伏し、ファイル管理システム全体のアクセス権限を奪った上で、バックアップ復元に必要な過去のデータそのものを破壊・暗号化します。
警察庁の発表でも、ランサムウェア攻撃の被害企業から情報が窃取されるケースが多発していることが示されています。[出典: 警察庁「令和5年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」]
ランサムウェアで顕在化するファイル管理の盲点
ランサムウェアがファイルデータを暗号化する際、従来のファイル管理システムでは、その暗号化の書き込み操作が「正常なファイル編集」として認識され、そのままクラウド上に同期されてしまいます。特にクラウドストレージ対策が不十分な場合、同期機能によってランサムウェアに汚染されたファイルが瞬時に全ユーザーのデバイスに拡散され、データ復旧が極めて困難になります。
感染後の「データ復旧」を確実にするクラウド対策の3つの柱
ランサムウェアの脅威に対して、法人向けの高セキュリティなクラウド対策は、予防、検知、そして最も重要なデータ復旧の3つの柱で構成されるべきです。
1. 自動バージョン管理と復元
ランサムウェアがファイルを暗号化する操作を、システムは「新しいファイルへの書き換え」として認識します。ここで重要なのは、暗号化される前の正常な状態のファイルを確実にバックアップ復元できる仕組みです。
- バージョン管理機能: ファイルが変更されるたびに、自動的にその変更履歴をシステム内部に記録・保持する機能です。
- 隔離されたデータ保管: 履歴データ(バージョン)は、ユーザーが容易に削除・改変できない隔離された領域に保管される必要があります。
ランサムウェア感染後、暗号化されたファイルを特定し、そのファイル全体を感染直前の正常なバージョンに一括で復元できる機能は、データ復旧の成否を分けます。
2. データ保存領域とアクセス権限の論理的分離
従来のファイルサーバーとバックアップの緊密なネットワーク接続はランサムウェアの格好の標的でした。クラウド対策として、ファイル管理システムが、データ保存領域(AWSなどの堅牢なインフラ基盤)と、ファイルへのアクセス権限を論理的に分離し、権限昇格によるデータ侵害を防ぐ仕組みを備えているかが重要です。
3. 監査ログとアラート
ランサムウェアの感染拡大を防ぐためには、異常なファイル操作を即座に検知することが不可欠です。法人向けのオンラインストレージでは、異常なアクセスやファイルへの書き込みパターン(例:短時間に大量のファイルが書き換えられるなど)を検知し、管理者へアラートを発する監査ログ機能を持つかを確認すべきです。このログは、感染がどこから始まり、どの範囲に広がったかを特定するための重要な手がかりとなります。
BCPを支える対策の迅速性とシステム選定基準
ランサムウェアの脅威に対し、事業継続計画(BCP)を機能させるには、単にデータが残っているだけでなく、「いかに早く正常な状態に復元できるか」が重要です。
ファイル単位からフォルダ単位への復旧手順
感染によって数万点に及ぶファイルが暗号化された場合、一つひとつを復元するのは現実的ではありません。法人向けのクラウド対策システムは、フォルダ単位やドライブ全体を、過去の任意の時点(感染前の特定時刻)に一括で復元できる手順を提供しているかが、データ復旧におけるRTO(目標復旧時間)を短縮する鍵となります。
高セキュリティを実現するアクセス制御とワークフロー自動化
予防対策としては、ファイル管理のアクセス権限を最小限に抑えることが基本です。さらに、ワークフロー自動化機能を利用し、機密ファイルの共有やダウンロードの申請・承認プロセスを厳格化することで、不用意なファイルの外部流出リスクを抑えます。このワークフローによる運用統制こそが、ランサムウェア感染の起点となりやすいヒューマンエラーを防ぐ間接的な対策となります。
ランサムウェア対策は「防御」と「迅速な復旧」の両輪で
ランサムウェアの脅威が高まる中、対策の焦点は従来の防御に加え、迅速な復旧体制の確立にも強く置かれています。事業継続計画(BCP)を確実にするためには、法人向けのクラウド対策システムが、自動バージョン管理・権限分離・監査ログを備え、フォルダ単位での迅速なデータ復元が可能なクラウド対策を重要な比較基準の一つに据えましょう。
