「2025年の崖」は、DX推進が遅れることによって日本の企業の競争力が低下し、経済の停滞を招くことを危惧した経済産業省の提言です。特に、老朽化したシステムを使い続けることの問題を大きく取り上げています。この記事では、あらためて2025年の崖の概要を解説し、システムのリプレイスなど解決のポイントを整理します。

「2025年の崖」とは?

2018年、経済産業省は『DXレポート』で「2025年の崖」というキーワードを示して、DX推進の加速を促しました。システムの問題解決や経営改革が行われずに企業の競争力が低下した場合、2025年から年間で約12兆円もの損失が生じると予測しています。なぜ2025年かといえば、レガシーシステムと呼ばれる古いシステムの保守サポートが終了する節目であり、それらを運用してきたエンジニアが高齢化して退職する時期にあたるからです。まず2025年の崖における危機について、技術面・人材面・経営面から問題を整理します。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

経済産業省

技術面における「崖」

大規模なレガシーシステムにはCOBOLなど古いプログラミング言語が使われ、維持と保守にコストがかかります。長期的な利用から老朽化が進み、処理速度が低下している上に、何度も改修されて複雑なシステムになっていることが多いという問題を抱えています。
一方で企業と社会を取り巻く全体を見渡すと、AIをはじめとした先端技術がめざましい発展を遂げました。クラウドサービスも浸透し、オンプレミスで運用されていた財務会計などのシステムもクラウド化が進んでいます。それにも関わらず、古い技術の足かせが最新技術への対応を困難にしている状況です。

人材面における「崖」

レガシーシステムの保守運用には、構築されたプログラミング言語を理解できる人材が必要です。ところが、高齢化のために維持できる人材は減少傾向にあります。このような状況にも関わらず、保守運用のサービスは安定した収益基盤を確保できることから、ベンダーはサポートによる受託型ビジネスから脱却できません。また、技術革新のスピードに対して、人材育成が追い付かない状況にあります。『DXレポート』は2018年の発行ですが、2025年のIT人材不足は約43万人まで拡大すると予測しています。

経営面における「崖」

経営面では、DX推進には経営者のリーダーシップが求められます。このときペーパーレス化や業務効率化も大切ですが、収益向上への取り組みを重視すべきです。ビジョンや戦略はもちろん、DX推進における行動指針を示すことが経営者に求められています。具体的なアクションの提示が変革のカギです。

レガシーシステムが抱える問題

ここまで「2025年の崖」の全体像を取り上げましたが、続いて技術面に焦点を絞り込んで、レガシーシステムの問題について掘り下げていきましょう。

システムの老朽化・肥大化・複雑化

DXレポートでは、2025年時点で、21年以上稼働を続けた基幹系システムが国内の60パーセントを超えると推測されています。老朽化したシステムは障害を起こす可能性が高まり、多大な損失を生むリスクを抱えています。さらに使わない機能が残って肥大化したり、機能追加によって複雑化を招いていたり、メンテナンス負荷が大きい状態になっています。こうしたオンプレミスのシステムを最新のニーズに適応させようとすると、多大な時間とコストが必要です。

ブラックボックス化とサイロ化

レガシーシステムの保守担当者によっては、自己流でメンテナンスを行った結果、システムがブラックボックス化している場合があります。本人にしか分からない仕組みになっていることから、引継ぎが非常に困難です。こうした属人性の問題は、中小企業においては事業の存続に関わる深刻な問題になります。また、部門ごとに独自のシステムを構築するサイロ化もあります。組織全体の情報共有が困難になり、ムダなコストが発生します。

セキュリティの脆弱性

システムやサービスのサポートが終了すると、プログラムを修正するパッチが提供されなくなり、脆弱性に対応できなくなります。たとえばWindows10は2025年の10月にサポートが終了します。そのまま使い続けていると、ウイルスなどサイバー攻撃に対するリスクが高まります。基幹系のアプリケーションについても注意が必要です。

レガシーシステムのリプレイスによる解決

レガシーシステムの抱える問題を解決するには、まずリプレイスがあります。リプレイスは、サーバなどのハードウェア、システムの一部または新たなものに置き換えることを意味します。リプレイスでは、OSやプラットフォームを新たな環境に移行させる変更を含みません。したがって保守がそのまま引き継がれ、大幅なコスト削減や効率化を望めないことがあります。
多くの場合、耐用年数の観点から5年ごとにリプレイスを行います。5年を経過すると最新の要求に対応が難しくなり、老朽化による保守費用が増大するからです。大規模な基幹系システムでは準備のために多大な時間と労力を必要とします。

オンプレミスからクラウドへ、マイグレーションによる解決

リプレイスと似た用語に、マイグレーションがあります。マイグレーションは、システムやデータを別の環境に移行することであり、OSやプラットフォームの移行を含みます。たとえば、COBOLの言語で構築されたシステムをJava環境に移行する場合などがマイグレーションです。社内で運用しているオンプレミスの環境をクラウドに移行するマイグレーションには、そのままクラウド化するクラウドリフト、改修や新規開発をともなうクラウドシフトがあります。オンプレミスとパブリッククラウドを共存させるハイブリッドクラウドは、柔軟性に優れています。
クラウドサービスを利用することで、コスト削減とともにセキュリティ面の強化も可能になります。ただし、社内の業務フローを変更しなければならない場合もあります。大幅にシステムを刷新するときは、導入時に教育やサポートを行います。

DXレポート以降「2025年の崖」はどう変わってきたか

大規模なシステムのリプレイスはコストがかかり、準備の時間も必要です。統合型の基幹システムERPを提供するSAPでは、SAP ERP 6.0の保守サポート期限を2025年から2027年に延長しました。しかし、このことにより2027年問題が新たに浮上しています。経済産業省の取り組みに注目すると『DXレポート』以降、2019年にデジタル化による経営改革の推進のために『「DX推進指標」とそのガイダンス』を策定しました。DX推進指標では、DXの成熟度を自己診断により6段階で評価します。その後、2020年にはDX銘柄・DX注目企業を発表。IT導入補助金などによって企業のDX推進を支援しています。
2022年には『DXレポート2.2』を公開し「デジタル産業宣言」を策定しました。2025年の崖の克服は順調ではないという指摘を認めながら「DX推進の取り組みは着実に前進している」と総括しています。

DXレポート2,2(概要)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf

経済産業省

2025年の崖を乗り越えるために、クラウドストレージを活用しよう

2025年が迫まった現在、あらためてDXを見直す時期です。焦る必要はありませんが、先延ばしにすべきではない課題もあります。生成AIや多様なクラウドサービスの動向を見据えて、自社の競争力を強化する対策に取り組むことが大切になります。クラウドストレージの活用もそのひとつです。Fleekdriveのセミナーをぜひ参考にしてください。

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