多大なコストをかけて導入した法人向けクラウドストレージが、一部の部署でしか使われない宝の持ち腐れになっていませんか?クラウドストレージの定着に失敗する企業には共通の原因があります。本記事では、多くの情報システム担当者が陥る導入失敗の典型的なストーリーを紐解きながら、定着を阻む要因を取り除くクラウドストレージ運用ルールの策定法と、ファイル管理の活用を促進して定着を加速する具体策を解説。シャドーIT対策も実現する、成功へのロードマップを提示します。
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導入したはずが…なぜクラウドストレージは定着しないのか?
「これでファイルサーバーのカオスから解放され、全社的な情報共有が促進されるはずだった」。そんな期待を胸に導入したクラウドストレージ。しかし数カ月後、現実はどうでしょうか。利用率は伸び悩み、結局メール添付や個人向け無料サービスが横行。ファイルサーバー時代と変わらない無法地帯が広がり、経営層からは投資対効果を問われる。これは、多くの企業で繰り返されるクラウドストレージ導入失敗の典型的なストーリーです。
「とりあえず導入」が招いた目的の不在という病
クラウドストレージが使われない最大の原因は、「導入」そのものがゴールになってしまうことです。「ペーパーレス化」「DX推進」といった曖昧な目的だけでは、現場の従業員には「なぜこれを使わなければならないのか」というメリットが伝わりません。結果、使い慣れた従来の方法から移行する動機が生まれず、誰も使わない高価な「箱」だけが残ります。
現場の業務を無視した複雑すぎる運用ルール
良かれと思って策定した詳細なフォルダ構成や命名規則。しかし、それが現場の業務フローを無視した複雑なものであれば、かえって負担となり敬遠されます。ルールを守ることが目的化し、本来のファイル管理の活用による業務効率化という目的を見失ってしまうのです。完璧なクラウドストレージ運用ルールよりも、まずはシンプルで実践的なルールから始めましょう。
放置が生み出す無法地帯とシャドーITの温床
導入後のフォローを怠ると、無法地帯化は加速します。ルールを守らない利用者がいても注意されず、結果として真面目に使う人が損をする状況が生まれます。公式ツールが使いにくいと感じた従業員は、より手軽な個人向け無料ストレージやチャットツールでファイルのやり取りを始めます。これが、情報システム部門が管理できないシャドーITの発生であり、企業のセキュリティポリシーを根幹から揺るがす深刻なリスクです。多くの企業でシャドーITの利用が常態化していることが、様々な調査で指摘されています。
ファイル置き場から業務基盤へ—クラウドストレージ定着を成功させる意識改革
クラウドストレージの定着とは、単に利用率を上げることではありません。それを業務に不可欠な基盤へと昇華させることです。そのためには、情報システム部門の役割と意識の変革が求められます。
ゴールは導入ではなく業務への組み込み
まず、「クラウドストレージをどう業務に組み込むか」という視点で目的を再定義しましょう。「契約書の申請・承認プロセスをすべてクラウド上で完結させる」「営業の案件情報と提案書を紐付けて管理する」など、具体的な業務シーンに落とし込むことで、従業員にとっての利用価値が明確になります。
従来の管理者の役割を超え、ビジネスの伴走者へ
ツールを管理・提供する従来の役割だけでは、定着は進みません。情報システム部門には、各部署の業務をヒアリングし、どうすればクラウドストレージが彼らの業務を楽にするかを一緒に考える伴走者となることが求められます。定期的な勉強会の開催や、部署ごとの成功事例を積極的に共有し、ファイル管理の活用をサポートし続ける姿勢が定着の鍵です。
使わざるを得ないをつくる——クラウドストレージ定着を促進する攻めの活用術
従業員の善意や努力だけに頼っていても、全社的な利用は進みません。クラウドストレージ定着を成功させている企業は、ツールを使った方が便利から、使わざるを得ない仕組みを戦略的に構築しています。
申請・承認を巻き込むワークフロー連携
多くの企業で紙やメールで行われている稟議書や経費精算などの申請・承認業務。このワークフローをクラウドストレージ上で完結できるように設定します。申請者は所定のフォルダにファイルを置くだけで、自動的に承認者へ通知が飛び、承認・却下までがシステム上で記録される。この利便性を体験すれば、多くのユーザーはもう過去のやり方に戻りたいとは思わないでしょう。
既存業務システムとの連携で部門を味方につける
例えば、営業部門が利用するSFA/CRM(営業支援・顧客管理システム)と法人向けクラウドストレージを連携させます。顧客情報画面からワンクリックで関連する見積書や契約書にアクセスできるようになれば、営業担当者の業務効率は劇的に向上します。このように、既存システムと連携させて「業務の一部」として組み込むことで、特定の部門を強力な推進派に引き込むことができます。
クラウドストレージ定着の鍵は「業務への組み込み」と「活用の仕組み化」にあり
クラウドストレージが定着しないのは、ツールの機能が劣っているからでも、従業員の意識が低いからでもありません。その原因のほとんどは、導入後の「活用の仕組み化」の失敗にあります。
単なるファイル置き場として提供するのではなく、申請・承認といったワークフローと連携させ、既存の業務システムに組み込むこと。そして、全社で統一されたシンプルな運用ルールを定め、情報システム部門が伴走者として粘り強くサポートし続けること。この「業務への組み込み」こそが、クラウドストレージが使われない状況を打破し、投資対効果を最大化するための最も確実な道筋です。高価な「箱」を、企業の競争力を生み出す「業務基盤」へと変革させましょう。
