「ファイルサーバーが限界」「必要なファイルが見つからない」といった課題は、クラウドへのデータ移行で解決できます。このデータ移行とは、社内にある大量の業務データをクラウドへ安全に移すこと。本記事では、その具体的な方法について詳しく解説します。

ファイル管理の課題を解決するデータ移行とは?

企業の成長とともに、扱うファイルの量は日々増え続けています。それに伴い、「社内のファイルサーバーがパンクしそうだ」「部署ごとにファイルがバラバラで、必要な情報がすぐに見つからない」といった悩みは少なくありません。これらの課題を解決する強力な手段が、クラウドサービスへのデータ移行です。

これは、社内のファイルサーバーや個人のPCに保存されている大量の業務データを、新しい保管場所であるクラウド上へ移すプロセスを指します。ただし、単にファイルを移動させる「引越し」とは異なり、アクセス権限などの設定移行や、クラウドの特性を活かしたファイル管理の最適化までを含む、より広範な取り組みです。

ファイルサーバーとは?
企業内でファイルを保管・共有するために、社内に設置されたコンピューター(サーバー)のこと。社内ネットワークに接続されたPCからアクセスできます。

ただファイルを移動させるだけなら手作業でもできそうですが、企業の業務ファイルは何万、何十万という数にのぼり、それぞれに複雑なアクセス権限が設定されています。これらをミスなく、かつ業務を止めずに引越しさせるのは至難の業です。そこで重要になるのが、クラウドサービスが提供するデータ移行機能なのです。

失敗しないデータ移行!具体的なファイル引越しの手順

データ移行は、やみくもに始めてはいけません。成功の鍵は計画にあります。しっかりとした準備と手順を踏むことが重要です。

ステップ1:移行対象ファイルの選定と計画

まずは、移行するファイルの現状を把握し、引越しの計画を立てます。

  1. 移行対象ファイルの選定
    どの部署の、どのフォルダにあるファイルをクラウドへ移行するのかを決めます。長年使われていない古いファイルは移行対象から外すなど、移行先に持っていくものを仕分けます。
  2. 移行先のフォルダ構成を設計
    クラウド上に、どのようなフォルダ構成を作るかを設計します。このタイミングでフォルダの命名規則を統一しておくと、移行後のファイル検索性が格段に向上します。
  3. アクセス権限の整理
    「このフォルダは営業部だけが見られる」といった、既存のアクセス権限を洗い出し、整理します。クラウド移行後も同じセキュリティレベルを維持するために、非常に重要な作業です。

ステップ2:専用ツールによる安全なデータ転送

計画が固まったら、いよいよデータ移行を実行します。ここで活躍するのが、クラウドサービスに備わっているデータ移行ツールです。

画面のイメージとしては、クラウドサービスの管理画面からデータ移行といったメニューを選択し、「移行元(現在のファイルサーバー)」と「移行先(クラウド上のフォルダ)」を指定して開始ボタンをクリックするだけ。あとはツールが自動でファイルを高速に転送してくれます。手作業と違い、安定性が高いのが特徴です。

ステップ3:ファイル移行後のデータ確認と最終チェック

移行作業が完了したら、ファイルがすべて正しく移行されたかを確認します。

  • ログの確認: データ移行ツールには、通常「どのファイルをいつ移行したか」といった作業記録(ログ)が残ります。このログを見て、計画したファイルがすべて移行完了していることを確認します。
  • サンプリングテスト: 実際にいくつかのフォルダやファイルを開いてみて、ファイルが破損していないか、アクセス権限が正しく設定されているかなどをチェックします。

データ移行ツールがもたらす3つのメリット

専用のデータ移行機能を使うことで、企業は大きなメリットを得ることができます。

メリット1:情報システム部門の負担を大幅に削減

企業のファイルをすべて手作業で移行する場合、数週間から数ヶ月かかることも珍しくありません。データ移行ツールを使えば、この作業を自動化できます。例えば、夜間や休日など、社員が業務を行っていない時間帯に移行をスケジュール実行させることが可能です。

メリット2:業務を止めない差分同期によるファイル移行

大規模なデータ移行中、社員がファイルにアクセスできなくなると、業務がストップしてしまいます。多くのデータ移行ツールには、「差分同期」という便利な機能が備わっています。これは、最初の移行が終わった後、元々のファイルサーバーで変更・追加されたファイルだけを検出して、自動でクラウド側にも反映してくれる機能です。これにより、業務への影響を最小限に抑えることができます。

メリット3:複雑なアクセス権限を安全に引き継ぐ

これが、専用ツールを使う最大のメリットと言えるでしょう。ファイルサーバーでは、フォルダやファイルごとに非常に細かくアクセス権限が設定されています。優れたデータ移行ツールは、ファイルそのものだけでなく、既存のアクセス権限情報もそのままクラウドへ引き継ぐことができます。これにより、セキュリティレベルを維持したまま、安全かつスムーズに新しい環境へ移行することが可能になるのです。

安全なデータ移行のための注意点と便利機能

実行前に確認すべき3つのポイント

  1. 移行計画は慎重に: 計画の質がデータ移行の成否を分けます。現場の社員にもヒアリングを行い、実態に合った計画を立てましょう。
  2. ネットワーク環境の確認: 大量のデータを転送するため、安定した高速なインターネット回線が必要です。事前にネットワークの帯域(通信速度)を確認しておきましょう。
  3. 社員への事前告知とトレーニング: いつからファイルの場所が変わるのか、新しいクラウドサービスはどうやって使うのかを事前に全社へ告知し、簡単な説明会を開くことが重要です。

まとめ:スムーズなデータ移行で情報活用の基盤を整える

データ移行は、単にファイルの保管場所を変えるだけの単純な作業ではありません。それは、これまで社内に散在し、属人化していた情報資産を、より活用しやすい環境へと移すための重要な第一歩です。この移行をきっかけに、情報が組織の共有資産として機能する基盤を整えることができます。

成功の鍵は、周到な準備と適切なツールの活用にあります。

面倒で難しそうに見えるデータ移行ですが、これを乗り越えることで、場所を選ばない柔軟な働き方の実現、ペーパーレス化の推進、そして組織全体の生産性向上といった、大きな果実を得ることができます。ぜひ、自社のファイル管理を見直す第一歩として、クラウドへのデータ移行を検討してみてはいかがでしょうか。