作成中の文書と、業務上の証拠として保持すべき記録を同じルールで管理していませんか。文書管理は、文書の作成・編集・共有・版管理・保管などを通じて、業務で利用する文書を適切に管理する考え方です。一方、レコードマネジメントは、業務や法的義務の証拠となる記録を対象に、真正性・信頼性・完全性・利用可能性を維持しながら、作成・取り込みから保持・利用・処分までを管理する考え方です。
実務では承認済み文書などを記録として管理するケースがありますが、「確定前は文書管理、確定後はレコードマネジメント」と一律に分かれるものではありません。本記事では、総務・法務・情報管理・監査の立場から、文書と記録をどのように整理し、管理ルールを設計すべきかを解説します。
Contents
文書管理とレコードマネジメントの違い
文書管理は、業務で作成・受領・利用する文書について、作成、編集、共有、版管理、検索、保管などを適切に行うための管理です。一方、レコードマネジメントは、業務や法的義務の証拠として管理すべき記録について、真正性・信頼性・完全性・利用可能性を維持しながら、作成・取り込みから保持・利用・処分までを管理します。
両者の対象や機能には重なる部分があり、必ずしも「作成中の文書」と「確定後の記録」で完全に分かれるわけではありません。どの情報を記録として管理するかは、業務内容や法令、契約、社内規程などに応じて定めます。
| 項目 | 文書管理 | レコードマネジメント |
| 対象 | 業務で作成・受領・利用する文書 | 業務や法的義務の証拠として管理すべき記録 |
| 目的 | 作成・共有・利用・版管理・保管などを適切に行う | 記録の真正性・信頼性・完全性・利用可能性を維持する |
| 変更管理 | 必要に応じて編集・更新し、版を管理する | 無断変更を防ぎ、許可された変更は履歴を追跡できるようにする |
| 典型的な操作 | 編集、承認、版管理、検索、共有 | 取り込み、分類、アクセス管理、保持、処分 |
| 管理ルール | 業務上の利用目的に合わせて設計する | 法令・契約・業務・監査上の要件などを踏まえて設計する |
レコードマネジメントの基本的な考え方は、国際規格ISO 15489で整理されています。日本では、ISO 15489-1:2016と内容が一致する国内規格としてJIS X 0902-1:2019「情報及びドキュメンテーション―記録管理―第1部:概念及び原則」が制定されており、記録の作成・捕捉・管理に関する概念と原則が示されています。
出典:日本規格協会グループ
作業文書から記録へ:文書のライフサイクル
業務で作成・受領されるすべての情報が、同じタイミングで記録として管理されるわけではありません。どの情報をいつ記録として取り込むかは、業務内容や法令、契約、社内規程などの要件に応じて定めます。承認済み文書を記録として取り込む運用もありますが、承認や「宣言」がすべての記録に必須というわけではありません。
- 作成・受領:業務の過程で文書や情報を作成・受領します。
- 業務処理・承認:必要に応じて編集・確認・承認を行います。
- 記録としての取り込み:業務上の証拠として保持すべき情報を、定めた基準に従って記録として管理対象にします。
- 保持・利用:保存期間やアクセス権限を設定し、必要な期間利用できる状態を維持します。
- 廃棄停止:訴訟や調査などで保存を継続する必要が生じた場合は、通常の処分を停止します。
- 処分:保存期間や処分ルールに従い、廃棄・移管などを行います。
どの段階で記録として取り込み、誰が管理責任を負うかは、組織の業務プロセスや規程に合わせて設計する必要があります。
記録として管理する判断基準
すべての文書を同じ保存ルールで管理する必要はありません。業務上の証拠として保持する必要がある情報については、法令・契約・業務・監査上の要件を確認したうえで記録として管理対象に取り込み、無断変更を防ぐとともに、必要な変更が生じた場合は履歴を追跡できるようにします。
たとえば、以下のような文書は記録として管理する対象になり得ます。
- 契約締結や意思決定など、業務上の効力が確定した内容を含む文書
- 監査・税務・訴訟などで証跡として提示される可能性がある文書
- 社外に正式に発行・提出した、または受領した文書
- 社内規程に基づく承認を経て、正式な記録として保持する必要がある文書
一方、検討段階のメモや一時的なドラフトなどは、業務上の証拠として保持する必要がない場合、文書管理のルールに基づいて管理します。どの文書を記録として残すかをあらかじめ分類しておくことで、不要な情報を過剰に保存することを避けやすくなります。
記録の分類例
| 文書の例 | 状態 | 管理の主眼 |
| 契約書ドラフト | 作業文書 | 版(バージョン)管理、関係者間の共有 |
| 締結済み契約書 | 記録 | 完全性の確保、アクセス管理、保持期間の管理 |
| 会議メモ | 作業文書 | 編集、参照のしやすさ |
| 承認済み議事録 | 記録 | 完全性の確保、検索・参照性の維持 |
| 保存対象と定めた監査証跡・ログ | 記録 | 完全性の確保、アクセス管理、保持・処分 |
同じ種類の文書でも、利用目的や法令・社内規程によって管理方法は変わります。そのため、文書名だけで一律に判断するのではなく、何を証明するために残すのか、どのくらいの期間保持する必要があるのかまで含めて整理することが重要です。
記録の完全性を支える管理ポイント
記録として管理する情報は、無断で変更されていないことを確認でき、必要なときに利用できる状態を維持する必要があります。具体的には、アクセス権限、変更履歴、バージョン管理、操作ログなどを組み合わせ、誰がいつどのような操作を行ったかを確認できる状態にすることが重要です。
なお、請求書や領収書など電子帳簿保存法の対象となる国税関係書類をスキャナ保存する場合は、同法が定める真実性・可視性などの要件を満たす必要があります。タイムスタンプはその要件の一つですが、一定の条件を満たすシステムによって代替できる場合もあるため、対象となる書類と保存方法に応じて要件を確認する必要があります。
出典:国税庁
また、紙の文書を電子化する場合や、最初からデジタルで作成された文書を保存する場合も、検索性やアクセス権限、変更履歴などを適切に管理することで、必要な記録を速やかに確認できる状態を維持しやすくなります。
関連記事:「文書管理の電子化のメリットと注意点」
保持スケジュールと廃棄停止
記録は、法令や社内規程、契約、業務上の必要性などに基づいて定めた期間保持します。文書の種類ごとに保存期間を整理した「保持スケジュール」を設けておくと、保存すべき情報と処分可能な情報を判断しやすくなります。
訴訟・調査などにより、通常の保存期間を超えて記録を保全する必要が生じた場合は、対象記録の廃棄・処分を停止する「ホールド」を設定します。対象範囲、設定権限、解除条件をあらかじめ定めておくことが重要です。
記録を処分するプロセス
保持期間が満了し、廃棄停止の対象でもない記録は、保存期間表や社内規程などであらかじめ定めた権限・手続きに従って、廃棄や移管などの処分を行います。担当者が任意に削除できる状態は避け、誰がどの根拠に基づいて処分できるのかを明確にし、必要に応じて処分結果を記録しておくことが重要です。
一件ずつ人手で承認する方法だけでなく、あらかじめ承認された保持スケジュールや処分ルールに基づいて処理する方法もあります。重要なのは、担当者の一存ではなく、組織として定めたルールと権限に基づいて処分することです。
文書とレコードの運用を分けて設計する
文書管理とレコードマネジメントを同じフォルダ・同じルールだけで運用すると、作業中の文書と長期保存すべき記録が混在し、アクセス権限や保存期間、削除ルールの管理が複雑になりやすくなります。
導入・見直しの際は、文書の種類ごとに、誰が作成・利用するのか、どの時点から記録として管理するのか、どのくらい保持するのか、誰が処分できるのかを明確にします。あわせて、フォルダ構成やアクセス権限、検索方法なども管理ルールに沿って設計します。
作業中の文書と保存すべき記録で、アクセス権限や保存期間、削除ルールを分けることで、運用上の混乱を防ぎやすくなります。
よくある質問
Q. 文書管理とレコードマネジメントは何が違い、どちらが必要ですか?
文書管理は、業務で利用する文書の作成・編集・共有・版管理・保管などを扱います。一方、レコードマネジメントは、業務や法的義務の証拠となる記録について、真正性・信頼性・完全性・利用可能性を維持しながら、作成・取り込みから保持・処分まで管理する考え方です。両者の対象や機能は重なる部分があり、必ずしも「確定前と確定後」で明確に分かれるわけではありません。
Q. どの文書を記録として管理すべきですか?
契約締結や正式な意思決定を含む文書、監査・税務・訴訟などで証跡となり得る文書、社外に正式発行・提出した文書や受領した文書などが対象になり得ます。どの文書を記録として管理するかは、法令・契約・業務・監査上の要件や社内規程に基づいて定めます。
Q. 保持期間中の記録を削除してよい場合はありますか?
原則として、定めた保持期間中の記録は廃棄しません。誤登録や重複などにより例外的な処理が必要な場合は、適用される法令や社内規程、廃棄停止の有無を確認し、あらかじめ定めた権限・手続きに従って対応します。保持期間そのものを変更する場合も、変更の根拠と承認・決定の記録を残せる運用にしておくことが重要です。
Q. 記録の廃棄を停止する「ホールド」とは何ですか?
訴訟・調査などにより、通常の保持・処分スケジュールを一時的に止め、対象となる記録を保存し続けるための対応です。対象範囲、設定する権限、解除条件などをあらかじめ定めておくことが重要です。
まとめ|記録の要件を整理し、適切な管理ルールを整える
文書管理とレコードマネジメントは、単純に「確定前」と「確定後」で分けられるものではありません。文書管理は、業務で利用する文書の作成・編集・共有・版管理・保管などを適切に行うための管理です。一方、レコードマネジメントでは、業務や法的義務の証拠となる記録について、真正性・信頼性・完全性・利用可能性を維持しながら、取り込みから保持・処分までを管理します。
重要なのは、どの情報を記録として残すのか、どのくらい保持するのか、誰がアクセス・処分できるのかを、法令や契約、社内規程、業務上の必要性に基づいてあらかじめ決めておくことです。
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