「ランサムウェアの被害がまたニュースになっている」
「テレワーク環境のセキュリティ、本当に万全だろうか?」
「取引先からセキュリティ体制についてチェックシートが届いた」

皆様は、日々このような課題や不安と向き合っていませんか。DXの加速、クラウド化の浸透、そしてサイバー攻撃の高度化・巧妙化により、従来の守りを固めるだけのセキュリティ対策やリスク管理では限界を迎えています。

今、企業に求められているのは、侵入されることを前提とし、攻撃を受けても事業を継続できるしなやかさ、すなわちサイバーレジリエンスという考え方と、それに基づく新たなリスク管理の視点です。

本記事では、複雑化する脅威に立ち向かい、自社の事業を守るための次世代セキュリティリスク管理について解説します。攻めと守りのバランスを見直したリスク管理を再構築するタイミングが来ています。

なぜ今、攻めのリスク管理とセキュリティ対策が求められるのか?

かつてのセキュリティ対策は、社内ネットワークと外部インターネットの境界線にファイアウォールなどを設置し、外部からの侵入を防ぐ「境界型防御モデル」が主流でした。しかし、この城壁は、以下の3つの大きな変化によって、もはや万能ではなくなっています。

背景1:クラウド化とDXによる境界線の消失

SaaSをはじめとするクラウドサービスの利用が当たり前となり、企業の重要データは社内サーバーだけでなく、データセンターや各種クラウド上に分散しています。もはや守るべきIT資産は城の中だけにはなく、社内外の境界線は曖昧になりました。これにより、どこからでもアクセスできる利便性の裏側で、攻撃対象領域(アタックサーフェス)が爆発的に増大しています。

背景2:ビジネス化するサイバー攻撃とサプライチェーンリスク

ランサムウェア攻撃は、単なる愉快犯によるものではなく、莫大な利益を生むビジネスとして確立されています。さらに近年は、セキュリティ対策が手薄な取引先や子会社を踏み台にして、本丸である大企業を狙うサプライチェーン攻撃が深刻化しています。自社のセキュリティが強固でも、サプライチェーンのどこか一箇所でも脆弱性があれば、そこから侵入を許してしまうのです。もはや、自社だけを守るという考え方では不十分です。

背景3:働き方の多様化によるエンドポイントリスクの増大

テレワークの定着により、従業員は自宅やカフェなど、セキュリティレベルの異なる様々なネットワークから社内リソースにアクセスします。これにより、従業員が使用するPCやスマートフォンといったエンドポイントそのものが、サイバー攻撃の主要な標的となりました。マルウェアに感染した個人のPCが、社内ネットワーク全体を汚染する入り口となり得るのです。

これらの変化は、侵入を100%防ぐことは不可能という現実を突きつけています。だからこそ、侵入後の被害をいかに最小化し、迅速に復旧するかというサイバーレジリエンスの観点に基づいた、新たなリスク管理のアプローチが不可欠となっています。

明日から始める、セキュリティを意識した具体的リスク管理対策

では、サイバーレジリエンスを高めるためには、具体的に何をすべきなのでしょうか。国内外で主流となりつつある対策を4つの軸でご紹介します。

対策1:ゼロトラストはリスク管理とセキュリティの新たな常識

ゼロトラストとは、その名の通り「何も信頼しない(Zero Trust)」を前提に、すべてのアクセス要求を検証する」というセキュリティの考え方です。社内ネットワークだから安全という従来の常識を捨て、すべての通信を疑うことから始めます。

業務への活かし方:

  • IDベースの認証強化: 多要素認証(MFA)を徹底し、パスワード漏洩時のリスクを低減する。
  • デバイスの信頼性検証: OSやセキュリティソフトが最新の状態でないPCからのアクセスを制限する。
  • 最小権限の原則: ユーザーには業務上必要最小限のデータやシステムへのアクセス権限のみを付与し、内部犯行やアカウント乗っ取り時の被害範囲を限定する。

 対策2:EDR/XDRを活用したセキュリティ強化とリスク管理体制の構築

従来のアンチウイルスソフト(EPP)は既知の脅威の侵入を防ぐ役割を担いますが、EDR(Endpoint Detection and Response)はそれをすり抜けた未知の脅威による不審な挙動をリアルタイムで監視・検知します。エンドポイント上の操作ログを継続的に収集・分析することで、感染後の早期対応を実現します。
さらに、エンドポイントだけでなく、クラウド、メール、ネットワークなど複数のセキュリティレイヤーから情報を集約・分析し、脅威の全体像を可視化するXDR(Extended Detection and Response)も注目されています。

業務への活かし方

  • インシデント発生時に、どのPCが感染源で、どこまで影響が広がっているかを迅速に特定。
  • 遠隔から該当PCをネットワークから隔離するなど、被害拡大を即座に食い止める。

 対策3:サプライチェーンの可視化がリスク管理とセキュリティ水準を引き上げる

自社だけでなく、ビジネスに関わるすべての組織を含めたセキュリティ管理が求められます。

業務への活かし方

  • 取引先・委託先のセキュリティ評価: 定期的にセキュリティチェックシートを送付し、契約内容にセキュリティ要件を盛り込む。
  • SBOM(Software Bill of Materials:ソフトウェア部品表)の活用: 自社システムが利用しているオープンソースソフトウェア等の部品をリスト化し、脆弱性が発見された際に迅速な影響範囲の特定と対応を行う。
  • ASM(Attack Surface Management)の導入: 攻撃者の視点で、外部から見える自社および関連会社のIT資産を洗い出し、脆弱性を管理する。

 対策4:ヒューマンファクターこそ、セキュリティとリスク管理の起点となる

どんなに高度なシステムを導入しても、それを使う人の意識が低ければ効果は半減します。

業務への活かし方

  • 実践的なセキュリティ教育: 標的型攻撃メール訓練などを定期的に実施し、従業員の危機対応能力を向上させる。
  • インシデント対応演習: ランサムウェア感染などを想定した机上演習(テーブルトップ演習)を行い、有事の際の報告ルートや各部署の役割分担を明確にしておく。

導入・実践時に押さえるべき3つのポイント

これらの対策を推進する上で、実務担当者が直面しがちな壁を乗り越えるためのポイントを3つご紹介します。

ポイント1:経営層を巻き込む投資としてのストーリー作り

セキュリティ対策は、売上に直接貢献しないためコストと見なされがちです。しかし、一度インシデントが発生すれば、事業停止による損失、顧客信用の失墜、多額の復旧費用など、企業の存続を揺るがす事態に発展します。
セキュリティ対策を事業継続性を担保するための戦略的投資として位置づけ、具体的なインシデント事例や想定被害額を提示しながら、経営層の理解と予算確保を取り付けることが成功の鍵です。

ポイント2:現実的なスモールスタートと継続的な改善

ゼロトラストやXDRといった先進的な仕組みを、いきなり全社に一括導入するのは現実的ではありません。まずは機密情報を扱う部署や、テレワーク利用者が多い部門など、リスクの高い領域から試験的に導入し、その効果を測定しながら段階的に適用範囲を広げていくアプローチが有効です。小さく始めて成功体験を積み重ねることが、全社展開への近道となります。

ポイント3:自社に最適なソリューションとパートナーの選定

セキュリティソリューションに「銀の弾丸」は存在しません。自社の事業規模、IT環境、そして何よりセキュリティ担当者のスキルやリソースを客観的に評価し、複数の製品やサービスを最適に組み合わせる必要があります。自社だけでの運用が難しい場合は、24時間365日の監視・運用を代行してくれる専門の外部パートナー(MSSPなど)の活用も、有力な選択肢となります。

今後の動向・展望 ~AIと自動化がもたらす未来~

セキュリティリスク管理の世界は、今後さらに変化していくことが予想されます。

  • AIによる攻防の激化
    攻撃側はAIを利用して、より巧妙なフィッシングメールを生成したり、脆弱性スキャンを自動化したりするようになります。一方、防御側もAIを活用し、膨大なログデータから脅威の予兆をリアルタイムに検知したり、インシデント対応の一部を自動化したりする動きが加速します。
  • サイバーレジリエンスのさらなる浸透
    前述の通り、「侵入させない」から「侵入されても事業を止めない」への意識改革が、あらゆる企業で必須となります。BCP(事業継続計画)とサイバーセキュリティ対策の一体的な運用が、企業の競争力を左右する時代になるでしょう。
  • セキュリティ人材の役割の変化
    専門人材の不足が続く中、定型的な監視・運用業務はツールやAIによって自動化が進みます。情報システム部門の担当者には、ツールの導入・運用だけでなく、リスクをビジネスの言葉で経営層に説明し、事業戦略に沿ったセキュリティ計画を立案・推進するビジネスと技術の橋渡し役としての役割が、より一層求められます。

まとめ:情シスはビジネスを守る戦略的パートナーへ

本記事で解説した次世代のセキュリティリスク管理は、もはや情報システム部門だけが背負う課題ではありません。それは、企業の存続と成長を支える、全社で取り組むべき経営課題です。

情報システム部の皆様は、その最前線に立つ司令塔であり、技術的な知見をもってビジネスを守る戦略的パートナーです。日々の運用に追われる中で、最新動向をキャッチアップし、新たな対策を企画・推進することは容易ではありません。しかし、本日ご紹介した「サイバーレジリエンス」という視点を持つことで、日々の業務の優先順位付けや、経営層への説明がしやすくなるでしょう。

まずは自社の現状を把握し、どこに最も大きなリスクがあるのかを特定することから始めてみてはいかがでしょうか。