法人でシステムを担当している人であれば、「クラウドコンピューティング(クラウド)」という言葉や仕組みをよく知っているのではないでしょうか。クラウドコンピューティングはこれまでのPCを利用したサービスにはなかった、まったく新しい概念です。クラウドを利用することで、さまざまな業務の効率化が可能になります。そこで、この記事では「クラウドのことはよくわからない」という人に向けて、クラウドの特徴やクラウドを利用したサービスの代表例などを紹介します。

クラウドコンピューティングの基本

クラウドとはクラウドコンピューティングの略称であり、インターネットを介してさまざまなコンピューター資源を利用できるサービスの総称を指します。たとえば、一般的によく使われるソフトウェアであるWordやExcelなどは、これまでPCにインストールしなければ利用できませんでした。つまり、従来はユーザーそれぞれのPCにWordやExcelといったソフトウェアをインストールしていたのです。従業員数の多い企業であれば、すべてのPCにソフトウェアをインストールしていく手間は膨大なものになってしまいます。そのようなときに便利なのがクラウドです。クラウドは、インターネット上のストレージ(データ保管庫)やアプリケーションなどのサービスを認証されたユーザーならだれでも利用できます。そのため、個人が利用しているPCにいちいちインストールしなくても、従業員にIDやパスワードなどの権限を与えてあげれば、すぐに利用できるようになります。

クラウドのメリットについてよく理解できない人は、自動車におけるレンタカーの利用を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。レンタカーを利用するメリットは、車の購入費用が必要ないことと、税金などの維持費がかからないことです。クラウドを利用するメリットも同じで、すでに開発されているシステムをインターネットで接続して利用するため、システム開発費はかかりません。また、システムのメンテナンスはクラウドサービスを提供している会社が行うため、ユーザーがメンテナンス費用を支払う必要はないのです。利用するために一定の料金を支払わなければいけませんが、サービスの多くは従量課金制となっています。そのため、自社でゼロからシステムを構築するよりは安く済むケースが多いといえます。

クラウドコンピューティングが生まれたのは、2006年にGoogleのCEOだったエリック・シュミットの言葉がきっかけだといわれています。PCは1990年代になると、技術の進歩によって小型化が進み、1人1台が当たり前の時代に突入しました。1人1台になることで従業員個人の仕事におけるスピードは向上し、効率化が図られてきました。しかし、そのぶんPCの数は膨大となってしまい、管理することが難しくなっています。その問題点を解決するために期待されているのが、クラウドです。クラウドでは、基本的にホストに置かれているソフトウェアなどをインターネットを経由して全員で共有していく形になります。そのため、管理を行うのはホスト上にあるソフトウェアだけで済みます。クラウドは、PCの普及に伴って必然的に生まれてきた技術だといえるでしょう。

クラウドを活用したサービスの代表例

クラウドはインターネット上におけるさまざまなサービスを指しますが、そのなかでも代表的な事例としてはWebメールが挙げられます。2000年代初頭あたりまではPCの初期設定を行う際に、メールソフトのインストールをしなければメールの送受信ができませんでした。しかし、「Gmail」や「Yahoo!メール」などを使えばメールソフトがインストールされていなくても、メールの送受信ができてしまいます。これらのメールサービスを提供しているのも、クラウドを活用した事例です。ユーザーは利用するサービスにログインすれば、インターネット上のサービスを自由に活用できます。

クラウドを活用した身近な代表例はWebメールですが、法人に注目されているのは「オンラインストレージ」です。オンラインストレージとは、その名のとおりオンライン上でストレージを提供するサービスを指します。オンライン上でデータの保存を行うことで容易に複数のユーザーと情報を共有できるほか、メンテナンスも簡単になります。オンライン上でデータの保存をすると聞くと、セキュリティに不安を覚える人もいるでしょう。法人が所有・管理するデータは会社の命ともいえる重要な情報です。万が一情報が外部に流出したら、大変な事態が想定されます。

しかし、セキュリティ対策については、データの保存場所がオンライン上であろうがなかろうが関係ありません。必ず対策はとらなくてはいけない事項なのです。むしろ、セキュリティについてよく理解していない人が行うよりも、プロであるオンラインストレージ会社に依頼したほうが十分な対策をとってくれるでしょう。そして、自社内だけでデータの保存を行っていると、従業員の不正によるデータの流出がないとは限りません。データの流出を防ぐために、第三者が管理するストレージに保存するというのはコンプライアンスの観点から考えても有効だといえます。

また、オンラインストレージのメリットとしては、会社のリスク管理に貢献するという点も忘れてはなりません。なぜなら、オンラインストレージではさまざまな場所にデータのバックアップをとっているのが一般的だからです。たとえば、自社内だけでデータを保存していると、大きな災害が発生した際に一度にデータを失ってしまうリスクがあります。しかし、オンラインストレージでは全国さまざまな場所にデータを保管しているため、1カ所で大きな災害が発生したとしてもデータが残っている可能性が高くなります。情報化社会といわれるようになって久しいですが、災害復旧のために必要なもののひとつが情報なのです。会社のリスク管理の観点からもオンラインストレージは不可欠なものでしょう。

クラウドにおける3つの種類とは

インターネット上にあるさまざまなサービスをクラウドと呼びますが、大別すると3つに分けられます。まず1つ目が「SaaS(サース)」と呼ばれるサービスです。SaaSとは簡単にいうと、ソフトウェアを提供するサービスのことを指します。これまでインストールして使用してきたソフトウェアをインターネット上で利用できるようになったと考えれば間違いありません。SaaSの代表例としては、先ほど紹介したGmailやYahoo!メールなどが該当します。

クラウドの残り2つの種類は「PaaS(パース)」と「IaaS(イアース)」です。PaaSの主な役割は、サービスを開発するためのプラットフォームを提供することです。一方、IaaSはサーバーやストレージを提供するサービスの総称として用いられており、いわゆるインフラを整える役割を期待されているのが特徴です。オンラインストレージは、オンライン上でデータを保存して共有することを目的としていますので、IaaSに含まれます。

SaaS・PaaS・IaaS という3種類のクラウドのなかでも、すでに完成しているソフトウェアやアプリケーションを利用する形になるのがSaaSであり、クラウドにおいて最もよく使われているサービスです。それに対して、PaaSやIaaSはどちらかというと法人向けで、システム開発や業務の効率化に向いているサービスが多く含まれています。法人のシステム担当者であれば、PaaSやIaaSのなかで利用できるサービスを探してみるとよいでしょう。

クラウドはインターネット上で利便性の高いサービスを利用できる!

クラウドは決して難しいものではありません。簡単にいうと、インターネット上でさまざまなサービスを利用できるものです。そこには、インターネット上に存在するクラウドならではのメリットがたくさんあります。クラウドを活用している事例では、Webメールやオンラインストレージが挙げられます。特にオンラインストレージは、データをインターネット上に保存して共有することでさまざまな業務の効率化が図れるため、今後はより必要性が高まっていくと言えるでしょう。